シャクジの森で〜番外編〜
結局治療は2針縫われ、痺れて感覚のないままに治療室を後にした。

大袈裟とは思ったが、思ったよりも深く切っていたらしい。

意外に出血量が少なかったのは、例の物を握り締めていたために血止めになったのだろうと思われる。


これでは暫くペンは持てないか・・・。


包帯を巻かれた手を見、シンディの瞳がどんどん潤んでいくので苦笑が漏れる。


“お分かりとは思いますが、下手に動かせば治りが遅くなりますよ”


などと眼鏡の奥をきらりと光らせ、動きを封じるためにわざと大きくきっちりと巻かれている。

何とも、見た目だけは、大怪我だ。




「・・・お兄様、痛そう・・・平気なの?」

「大丈夫だよ。不便だが」



お誕生日が近いのに・・・と悲しげに言う頭を左手でポンポンと撫でる。

あのとき避けなかった私が悪いのだから。

これも、一種の自業自得なのだ。


リードに“世話になったね”と労いの言葉をかけ、シンディを長官室まで連れて行く。

馬車の準備はとうに出来ているだろうが、このまま一人で帰すわけにはいかない。

シンディに暖炉側の椅子をすすめると、珍しげにキョロキョロと辺りを見回し始めた。


ポケットの中にある例の物を出し、もう一度書かれていた文字を確認したいが、シンディの前では無理だな・・・

あれは、結構血に染まっている。


部屋に着く前に所望しておいたお茶とお菓子が運ばれてくると、シンディは漸く気持が落ち着いてきたようだ。

普段通りの愛らしい表情に戻り、お菓子を頬張っている。

安心しつつ今朝からの出来事を頭の中で整理し、纏め始める。

書類でなくとも、ある程度は口頭で報告をしなければならない。



アランのいない日は、今回も大変だった。

しかも、今日は、特別に。

実際にはまだ終わってないが、もう何も起こらないだろう―――


窓の外を見れば、日が西の山に沈んでいくのが見えた。

辺りが暗闇に染まり始めれば、二つの月が空に明るく浮かび上がる。

アランの帰城も間もなくだろう。



「ね、お兄様。どこか具合が悪いの?」



いや、どこも悪くないよ。

そう返事をしながら振り返れば、例の処方袋を手にするシンディが目に映った。

今は、表書きをじーと見ている。まだ、中を見ていないようだ。



「っ、シンディ?それは。―――こちらに、渡してくれないか」



今すぐに奪い取りたいのをぐっと堪え、逃げていきそうな平常心を何とかとどめ置く努力をする。

こういった物に関する女性のカンは鋭く、怖ろしいものだ。

全く、今朝の我が行動を、つくづく恨めしく思うよ。



「具合が悪くないのにどうして?何のお薬が入ってるの?」
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