シャクジの森で〜番外編〜
「で、慎重に周りに気を配りながら近付いていったんです。

だって、もしかしたら何かが物陰に潜んでいるかもしれないでしょう。

お傍に寄って跪いて、そっと肩に手をかけようとしたんです。


―――その時ですよ―――


『何者だ!?』 って。


少し息の荒い、張りのないアラン様の声が部屋の中に響いたんです。

で、同時に鍛えられた腕が掴まれて、逞しい警備兵の体が軽々と宙を飛んだんです。

こう・・・ひゅーんと・・」



料理長のふくよかな指が、目の前の空間にすーっと弧を描いた。

軌道を追うシリウスの瞳も一緒に弧を描いていく。



「で、床にバーンと打ちつけられて、腕がぎゅーっと捻じられて、アラン様の剣が後頭部にピタっと当てられたんです。



『目的は何だ!?』


って鋭く仰いながら。


もう私は恐ろしくて恐ろしくて・・・体が固まっちゃいましたよ。


で、私の脇を数人の警備兵の方が矢のように駆け抜けていったんです。

状況を見て焦ってましたよ。

そりゃそうですよねぇ、どうにも理解できませんから。



『一体これは、何事ですか!?』 って。


・・・で、駆け付けた警備兵の方たちとアラン様に、懸命に説明しましてね。

アラン様も納得されて体を離されて、どうにかその場は収まったんですが。


あの捻じられた腕は、見事にぽっきりと折れてしまっていてねぇ・・・。

当のアラン様は、高熱で息も絶え絶えの体で、毅然とした表情でこう仰ったんですよ。



『この私に許可なく触れる者は、すべて皆賊とみなす。覚悟を持って近付くが良い。例え、この塔の警備兵であっても、だ。このアラン、高熱があろうともどんな時でも、意識の有る限り、決して気は緩めぬ!』


―――って。


腕を折られた兵の方は、アラン様の物凄い迫力に、呻き声ひとつも漏らせないまま、医務室に運ばれて行きましたよ」



料理長は、大きな仕事を終えたとでも言うように、ふぅーっと大きなため息を吐き、正室の扉を見やったあと、不安そうな顔をシリウスに向けた。
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