シャクジの森で〜番外編〜
懸命に我が腕の中から逃げていく身体。

今逃したら、私は一生後悔をするだろう。

包み込んでいた腕を一旦離し、零れ落ちていく身体を素早く支え直し、抜け出せないようにしっかり腕の中に仕舞いこんだ。

ブロンドのふわふわの髪が、心地よく顎をくすぐる。

何度も唇を落とし、ふんわりとせっけんの香り漂う中に顔を埋めた。


「全く・・・君は・・・。先程から、待てと申しておるだろう―――私のせいであるのに。このままにしておける筈がないであろう。君をどれほど大切にしておるか・・。そのような哀しい顔のままで、今日一日を過ごさせるわけにはいかぬ」


機嫌を損ねたのは私のせいだ。

にも関わらず、君はどうしてそんなに我慢をする?


「・・・アラン様・・?」


「妻らしくとは、何をどうするのか分からぬが・・・。それは、今一度やり直すことは出来るか?」


「え?・・・ぇっと・・・でも・・・もう随分時間が遅いわ。アラン様は、今日もお忙しいのでしょう?」


「昨夜、時間があると申したであろう?今日一日は君と一緒に過ごすと決めてある。どこか行きたいところはあるか?今日一日は存分に我儘を申すが良い」


「・・・それは、つまり・・・あの・・・」


「今日は父君より休暇を貰っておる。仕事は昨日済ませておいたゆえ・・・時間など気にするな。気付けば、もう9時を過ぎておる。私は随分眠っておったのだな・・・このようなことは初めてだ。一度はいつものように起きたんだが、君の傍があまりにも心地よかった故―――目覚めるのをすっかり忘れておった。王子として失格だな」


腕を緩めると、信じられないといった面持ちで、潤んだアメジストの瞳が見上げていた。



「アラン様・・・ほんとうなの―――?今日は、ずっと・・傍に・・・いてくれるの?」


「無論だ。―――君は・・・私がずっと傍におるのは嫌か?」


急に不安になっていく。

君はあんなことをした私と一緒に過ごしてくれるのか・・・。



無言のまま、ふるふると首を横に振るエミリー。

見上げている瞳がますます潤んでいく。

零れ落ちそうな雫を掌でそっと拭いた。


何故泣いておる・・・。



「今日は・・我儘・・・言っても、いいの・・・?甘えてもいいの・・・?」


「君の申すことなら何でも良い。まずは、その・・・“妻らしく”・・・のやり直しだな―――」
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