シャクジの森で〜番外編〜
涙で濡れたアメジストの瞳。

ふっくらとした愛らしい唇は僅かに動いている。

その様子は“ほんとうにいいの?”とでも言いたげだ。



「私はここに寝ておれば良いのだな?」



「あの、でも、やり直すなんてそんなこと・・・やっぱりアランさ―――」


遠慮がちに言葉を紡ぐ唇に、指をそっと当てた。



――みなまで申さずともその先の言葉は分かっておる。

それは私に対する気遣いなのか、それともこんなことを提案した私に呆れておるのか。


だが、私は―――


「君が私の“妻らしく”したいのと同じく、私は君の“夫らしく”したい」


「そんな・・・アラン様は十分、立派な夫で・・・わたしにはもったいなくて――」



「エミリー、そうではない・・。夫として、君の我儘を聞きたいと思っておる。分かるか?」




君を甘やかしたい。


君の笑顔を一日中見ていたい。




「このまま何も我儘を申さぬのなら、今すぐに私なりの“夫らしく”を実行するぞ。君がやり直さないなら、そちらにしても良いか?」


最後の手段、脚を持ちあげ身体を傾け、寝かせる素振りをした。


すると“ぇ・・”だの“ぁ・・”だのと戸惑いの声をあげながらアメジストの瞳が見開かれていく。



「黙っておるなら、このまま実行するが―――覚悟は良いか?」


柔らかそうな唇を目掛けて近付いていくと、差し出されたてのひらでやんわりと遮られた。


逃げていくそれを捕らえて唇を押し付け、ゆっくり離すとチュッと小さな音を立てた。



「エミリー?きちんと申せ」


「アラン様・・・待ってください。あの、それだと・・・困り・・ます」



あたふたとしながらも、自分の想いを漸く口にし始めた。


全く、君は、世話が焼ける。

あともう一息だな・・・。




「・・・・そうであろう?では、どうしたい?」


「やり直ししたいです。だから・・・アラン様にもう一度、ここで眠って欲しいです・・・」


「分かった。では眠るとしよう。私は君の希望に沿うよう努力するゆえ、怖がらずに近寄るが良い」


「それと・・あの・・・少しの間だけ、アラン様のお部屋に行って来てもいいですか?」



―――私の部屋・・・?

今の時刻は使用人がおるやもしれぬが・・・。



「私の部屋か・・。分かった。ただし、部屋に誰が居ったとしても話はせず、加えて決して廊下には出ない、すぐに戻ると約束してくれるか?」


「・・・?はい、すぐに戻ります」
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