シャクジの森で〜番外編〜
シンプルな白いお皿の上に乗っているのは、しっとりと玉子色に染まったパン。

こんがりと美味しそうな焼き色をつけ、粉砂糖が振りかけてあり、見た目はケーキのようにも見える。

かたわらにはシロップの入った小さなカップとフルーツソース入りのヨーグルトと果物。

それに、花柄の保温ポットが置かれていた。

多分、中身はコーヒーだろう。



「これを、君が?」


「えぇ、料理長さんにお願いして作らせてもらったの。時間がなかったから簡単なものですけど。これは、ママがよく作ってくれたものでとても美味しいの。でも、冷めてしまって・・・どうしようかしら」



エミリーは皿の上を見つめ、暫く考え込んでいたが、やがてトレイを手に持った。


まさか、作りなおすつもりではあるまいな。


「これは冷めていても美味しいけれど、温かい方がもっと美味しいの。わたし、下に行ってあたためてきますね。アラン様は待っててください。すぐ戻りますから」


そう言ってテーブルの前に立ったエミリー。

心なしか少し焦っているように見える。




そんなエミリーに近付き、無言のまま後ろに立つ。

体の中にすっぽりと収まるエミリーの華奢な身体。

手を背後から伸ばしても、皿を片付けている小さな手まで容易に届く。





「エミリー、ダメだ。下に行ってはならぬ」



驚かせないよう注意を払いつつ手を伸ばす。


動き回る綺麗な白い手を止めるように、先ずは指先でそっと触れた。



「・・・?」


ふと止まった瞬間を逃さず捕え握り締め、テーブルの上から遠ざける。

同時に、トレイもエミリーの手から奪い、猫脚テーブルの上に戻した。


急にトレイを取られ、行き場がなくなりあたふたと空を彷徨う小さな手。


それをすかさずそっと包み、両手を封じたまま後ろからきゅっと抱きすくめた。




「・・・そのままで良い」


「でも・・・コーヒーもきっと冷めているわ。わたし、アラン様に美味しいのを食べて貰いたいの」


「良いと申しておる。私は、君の作ったものであれば、例え苦い薬湯であろうと美味しいと感じる自信がある。これは冷めているだけであろう?とても美味しそうだ。早く食べさせてくれぬか?」


エミリーが作った朝食。


料理長が作るどんな豪華な料理よりも、私には貴重なご馳走に思える。


早く味わいたい。このまま無理にでも・・・と考えていると、腕の中から予想外の言葉が聞こえてきた。




「自信・・・。ほんとうなの?苦いお薬も―――?」



――そこに興味を示すか。早く食べたいと申しておるのだが・・・。



「無論、本当だ。試してみるか?」


「ぇ・・・?試すの?」


呆然としたように呟いたあと、ふっと吹き出した。


何がそんなに可笑しいのかクスクスと笑うエミリー。


冗談ではなく、私は全く本気なわけなのだが・・・。
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