シャクジの森で〜番外編〜
まぁ良いか・・・。エミリーが笑ってくれた。

引き結んでいた口元が自然に緩む。


――正直私は、女性のクスクス笑いは好きではない。

上辺だけの、その場を取り繕うだけの嫌な笑い、何かを企むような嫌な笑い。

そんなものを今まで随分多く見てきた。

上流の女性のこそこそと話す仕草。

そのあとに漏れる忍び笑い――

年頃になってより、会う者皆妃の座を狙い、ねっとりとした瞳で身体を寄せてきた。

欲しいものは私の心ではなく妃の座。

そのために身につけた作り込んだうわべだけの微笑み。

そんなものに嫌気がさし誰を迎えても同じに思え、妃など誰でも良いと思っておった。

迎えてさえおれば、国の体裁が保たれる。

妃とはそれだけの存在にしか思えなかった。

君に出会うまでは―――


君は違う。

その性格ゆえ、哀を隠すことが多いが、純粋に可笑しいと笑い、嬉しい時は身体全体で表現してくれる。

そしてたまに、可愛らしく、怒る。

何のよどみもない瞳。

何の駆け引きもない綺麗な心。

まばゆいほどに美しい。

君だけだ・・・君の笑い声だけは耳に心地良く響く。

この綺麗な心が汚れぬよう、これからも守ってやらねばならぬ。



笑いが収まりかけたのを見計らい、エミリーの身体の向きを変えて正面から瞳を覗き込んだ。

アメジストの瞳が楽しげにきらきらと輝いていてとても愛らしい。



「エミリー、そんなに可笑しいか?」


「ぁ・・ごめんなさい・・・笑ってしまって・・。アラン様?温めてくるだけですから待っててください。今日は、わたしの我儘聞いてくれるのでしょう?」


「それはそうだが・・・・。では、私も参る。待っておれ。すぐに着替える。良いか、勝手に部屋を出てはならんぞ」


「ダメです。アラン様がキッチンに来ては、皆が驚いてしまうわ。だから、大人しくここで待っててください。ね?」



着替えている間にもエミリーはトレイに皿を載せ終わり、今にも部屋を出ていこうとしている。

トレイを持って階段を降りるなど、そんな危険なことはさせられぬ。




「エミリー、待てと申すに―――全く」
< 26 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop