シャクジの森で〜番外編〜
塔の最下階の一番奥。


開け放たれた扉の向こうから聞こえる、カチャカチャと食器を洗う音や料理人達の威勢のいい声。


忙しげに部屋の中を行き交うのは、食材の籠を抱えた見習いコックたち。

キッチンの中はすでに昼食の下ごしらえに取りかかっているようで、皆が忙しそうに動きまわっていた。


その入口近くまで来ると、支えていた華奢な腰がふと立ち止まり、衝撃で持っていたトレイの上の食器がカチャと音を立てた。


エミリーはキッチンの中をそっと覗き見た後、此方をじっと見上げた。

少しだけ寄せられた眉は、困っているように見える。



「どうした?やはり部屋に戻るか?」


「アラン様はここで待っていた方がいいわ。皆が驚いて、何かを落としたりして怪我をするかもしれないもの。ほら、刃物を持ってる人もいるわ」


「・・・そう、だな・・・いや、一緒に参る。静かに入れば良いだろう?」


「ダメ。アラン様はそこにいるだけでとても目立つもの。気付かれないように静かに入るのはとても無理よ?だからここで待ってて・・・。ね?」



いかにも“私なら大丈夫”的に申すが、目立つのは君も同じだというのに、全く面白い。


何時だって君は、ある意味私より目立っておるのだが、やはり自覚はないのだろうな。


トレイを奪おうとする小さな手を遮り、まだ何か言おうと開きかけた唇を指先で閉じた。




「ダメだ。エミリー、良いか?これは、私が、持っていたい。分かるな?」




首を傾げ、アメジストの瞳が不思議なものを見るように此方を見上げている。



――どうしてなのか分からぬか・・・?

ならば――



肩を抱きよせて耳元で答えを囁くと、エミリーの頬がリンゴのように赤く染まった。




「・・良いか?早く食べられるようにしてくれるか?」


「・・・はい・・アラン様・・」



ポットをぎゅっと抱きしめて、恥ずかしげに俯いたエミリーの腰を引き寄せ、開かれたドアの中に一歩足を踏み入れた。


途端に静まり返るキッチンの中。


戦場のような殺伐とした空気の中に、つと入り込んだピリッとしたアランの放つ王子の威厳。


そのオーラを感じ、動きを止め振り向いた皆の目が見る間に見開かれる。


各々が手に持っている物を何処へ置こうかと迷うように右往左往とし出し、やがて慌ただしく隅に寄り頭を下げた。




「―――っアラン様、こんな所に何の御用でしょう?」
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