シャクジの森で〜番外編〜
案の定、キッチンの中がざわついた。

顔を紅潮させ、互いにコソコソと話しをしておる。


王子妃たるもの、そうそう皆に言葉をかけてはならない。




「エミリー、君は皆に声をかけずとも良い」



小声で窘めると、これもまた不思議そうに見つめてきた。

少し開いた唇は“どうしてなの?”と呟きそうだ。



―――全く・・・君にもう少し自覚を持たせねばならぬな。

これからの私の課題がまた一つ増えた。

さて、今日一日で、あとどれだけ増えるか―――




「エミリー?早く温めて上に参るぞ」


焜炉の傍に立ったエミリーにアランがトレイを渡すと、それを見た料理長のつぶらな瞳が大きな丸へと変わった。

戸惑うようにエミリーとトレイの上を交互に見ている。



―――料理長、全くその通りだ・・その気持ちはよく分かる。

・・・まぁ、原因は私なのだが―――



「・・・コレですね・・・??というか、エミリー様、まだ召しあがってなかったのですか?」


「えぇ、そうなの・・・ちょっと、色々あって・・・ね?アラン様?」

「・・私は、そのままで良いと申したぞ」



はにかむように微笑むエミリーと、それを優しく見つめるアラン。


丸く見開かれたままの料理長の目が、二人を見比べたあと、華奢な腰に注がれた。



キッチンに入ってから、いや、多分その前からか。

“ここが定位置です”とばかりに、守るように、包み込むように、大きな手がずっとそこにある。


いつも通りに無表情だが、フライパンで温めている姿を見つめるブルーの瞳からは、溢れるほどの優しさしか感じ取れない。


料理長はつぶらな瞳を細め、にこにこと笑った。



―――余程エミリー様のことが大切なんだなぁ。

うーん、しかし、まだ召し上がっていないとは・・・。

やっぱり心配したとおり、朝、何かあったのかな?

お二人とも普段通りに見えるけど、何かあったと考えた方が、すっきりしっくりくる。



“というか、無粋です”


・・・あ、そういうことも考えられるか・・・。


いやいやいや、朝から何を・・・。



いや、でも、しかし・・・・


新婚だからなぁ――――



あらぬ想像を膨らませ、仲睦まじい姿をぼんやりと眺めていると、目の前に、花柄のポットが、ぬっと現れた。




「料理長、良いか。これも温めたいのだが―――」
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