シャクジの森で〜番外編〜
エミリーに対する言葉や表情はこの上なく柔らかいが、他の者にはとても厳しいアラン。というか、これが本来の姿。

料理長に向けられたのは威厳をたっぷり含んだ、冷たい口調。

城の者には滅多に優しさをみせない。

背筋に氷を入れられたような感覚に身震いし、料理長は慌ててポットの中身を温め始めた。


隣では逞しい体が華奢な身体を覆い込み、ブルーの瞳は熱いフライパンを扱うか細い腕を心配げに見ている。


周りを気遣っているのか、ぼそぼそと小さな声で交わされる会話。

それを漏れ聞いている料理長の頬が、どんどん緩んでいく。

発する言葉の端々からアランの溢れるほどの愛情が伝わってくる。


傍で作業をしている他の料理人たちも、二人の会話が聞こえるのか、表情がとても柔らかい。







「・・もうそれで良いのか?・・熱いゆえ、気を付けるが良い」


焜炉の火を止めたエミリーのか細い腕が、重い鉄製のフライパンを持ち上げようとしている。

力を込めるように唇をキュッと結び、持つ腕がふるふると震えている。


熱い上に重いなど、料理人ならばともかく、このか細き腕では持ち上げるのはとても無理だ。



「―――っ・・エミリー、待て。重いのであろう?私がやる」


「アラン様ったら・・・わたし、このくらい大丈夫なのよ?さっきも見ていたでしょう。わたし、トレイとポットが持てるんですから・・・それよりも、そこのお皿をください」


「何を申しておる・・・。我慢せずとも良い。こんなに震えておるのに」



フライパンを持つ小さな手の上にそっと掌を重ねて下におろさせ、柄に絡まる指を解き始めた。

すると、抵抗するように、更にしっかりとか細い指が柄に絡んでいく。



「ぁ、アラン様・・ごめんなさい・・・でも、わたし一人で出来るわ」


「ダメだ、このくらいさせよ。私は君の夫であろう?もっと甘えるが良い。力仕事は私の出番だ。それに、怪我をせぬか心配でならぬゆえ、どうにも黙って見守っておられぬ・・・皿は、これで良いのだな?」


皿に移し終え、しゅんとしてしまったエミリーの身体をすっぽりと包み込み、ブロンドの髪にそっとキスを落とした。


――エミリー。我儘な私を許せよ・・・。
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