シャクジの森で〜番外編〜
問いかけると、息がふーっと吐き出された。

少し青ざめていた頬がほんわりと赤く染まってゆき、見る間に瞳が潤んでいった。

皿を見ると、一口二口食した程度で、ほとんど残している。

右手にはフォークを握り締め、ぎゅっと握られた左手は、胸のあたりに置かれていた。



「エミリー、食が進まぬのか?どうした。やはりどこか痛むのか・・・遠慮せずに、申せ」



急ぎ傍に行き、跪いて柔らかな頬にそっと掌を乗せた。

固まっていた左手を、胸から引き剥がして指に絡めると、アメジストの瞳が少し見開いた後、はにかむように伏せられた。



「アラン様、心配しないで。どこにも痛みはありませんから」


「ならば良いが。今朝のこともある。どこか痛むのであればすぐに申すのだぞ。決して我慢してはならぬ。良いな?・・・それに、無理にとは申さぬが、隠し事はせず、何でも話してくれぬか。君の全てを受け止めたいゆえ」




諭すようにゆっくり話すと、エミリーは一瞬瞳を彷徨わせ、意を決したように息を吐くと、身体ごとこちらを向いた。

上目遣いで此方を見た後、うつむき加減のまま、ぽつりぽつりと語り始める。

本日何度めだろう・・・その何気ない仕草に、心臓がちくんと痛む。



「・・・アラン様、違うんです。わたし、今、とても嬉しいんです・・・これは具合が悪いのではなくて、胸がいっぱいで食べられないんです」




―――胸が、いっぱい・・・?胸がいっぱい、とは・・・何だ?

嬉しい、は分かるが―――




「わたし、こんな風に“妻らしく”するのが夢だったんです。

朝、眠るアラン様を起こして、着替えを準備して・・・そして、手作りのお食事を食べて貰うの。

・・でもアラン様は王子様で、だから、出来ないって諦めてたの。

わたしのしたいことは、皆がしてしまうし・・・それに、使用人たちのお仕事を奪ってはいけないわ。

だから、せめて早起きして、アラン様を起こしたかったの。

・・・でも、わたし、寝起きが悪いでしょう?頑張っても起きられなくて―――

アラン様はわたしと違って、忙しい身だもの。

仕方のないことだけれど、目覚めたらいつもいなくて・・・寂しくて、哀しくなって・・・それであのとき涙を・・・。

おかしいでしょう?いつも早く起きられないのに、起こしたいって思うなんて」
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