シャクジの森で〜番外編〜
「行きたいところは、たくさんあるの。でも全部は無理でしょう?・・・だから―――」


思案げに瞳を伏せるエミリー。

ふっくらとした唇からは「そういえば、メイが言っていたわ」とか「でも・・」とか「きっと素敵なところよね」などの呟きが漏れている。

きっと頭の中には、いろんな場所が現れては消えていることだろう。

婚姻前より続いておるメイとの夕食後の茶会で、城下のことは多分に情報を得ておるはずだ。



「待っておるゆえ、ゆっくり考えるが良い」



悩むエミリーの髪を撫でながら声をかけた後、視線を移すと猫脚テーブルの上の皿が目に入った。


――まだ、そのままであったな。

当たり前か、給仕はおらぬゆえ。



片付けるべくトレイに皿を乗せていると、頭に思い浮かんだレオのおせっかいな書状。

今では感謝をしておるが。


あれに寄れば、レオ。君には、私の行動が手に取るように分かる、と書いてあるように読み取れたが。


それに、当ててみせるとも書いてあったな。


だが、君はおろか誰にも到底予想もつかぬことが、今現在起こっておる。


レオが少々非常識な思考を持っているといえども、この事態を当てることなど無理だ。

エミリーの行動は誰にも予測できぬゆえ―――



供を着けず城下に参るのは、はっきり申せば、かなり危険なことだ。

しっかり気をつけ、守らねばならぬな―――――ん・・、何だ?



何かに引かれる感覚にふと見下ろすと、か細い指が服の端を掴んでいる。

少し寄せられた眉と、思案気な色を浮かべるアメジストの瞳。

その先を辿ると、どうやらそれは私の髪に定められているようで・・・何を考えておる?



「アラン様ごめんなさい。片付けをさせてしまって・・・これは、わたしがやるべきことだわ」


「あぁ、これか。これくらいのことは良い。それよりも、どうだ?行き先は決まったか?」


「えぇ、いろいろ迷ったの。名所も見てみたいし、少し遠いけれど、南にある離宮にも行ってみたいの。でも、今日はお買い物に行きたいわ。欲しいものがあるんです。アラン様が行きたい所から遠くなければ、ほんの少しの時間でもいいの。お買い物に連れて行ってくれますか?」
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