シャクジの森で〜番外編〜
―――買い物か。では、市場通りだな。

多くの民が訪れる場所は、出来れば長居したくないが・・・。



「それならば近いゆえ、都合が良い。南の離宮には次回にでもゆっくり尋ねれば良い。・・・城下は、楽しみか?」


「えぇ、とても。・・でも・・・アラン様?城下にはお忍びで行くのでしょう?」



何か心配事でもあるのか、問いかけてきた瞳が少し揺れておる。

やはり、城下が不安なのだろう。

以前兵士に囲まれたことを思い出したか。

それとも―――サルマンの屋敷のことでも思い出したか。



エミリーが一人で城下に参ったのはあの時だけだ。

しかも、自ら参ったのではなく、攫われたのだが。



思い出すと、今でも心臓がツキンと痛む。

あの時ほど、王子という身分であることが恨めしく思えたことはない。


握り締めた手に力が篭る。

ひりひりとした気が漏れ出るのを抑え、出来るだけ心を平静に保つ。

動揺はエミリーにも伝わるゆえ。

怖がらせてはならぬ―――



「あぁ、そうだ。護衛は着けず、二人で参る。何か、不安そうに見えるが、怖いのか?大丈夫だ、必ず私が守る。安心せよ」


「大丈夫です。ちっとも怖くないわ。アラン様が一緒なんですもの。とても楽しみで、嬉しくて、ワクワクしてるの」


両手を胸の前で合わせ、嬉しそうに微笑むエミリー。

思い過ごしであったことに、安堵の息が漏れ、いつの間にか身体の前でふりふりと動く手をしっかりと握りしめていた。



「君がそんなに喜ぶとは。此方まで楽しくなる」


「えぇ、とても楽しみだわ。だって、城下でのデートは、初めて、でしょう?」



耳慣れない言葉・・・デートか・・・デートとは・・・


前に講師より聞いたことがある。


確か―――――




“アラン様、宜しいですか。次いで女性との愛の育み方ですが。

デート、というものが御座います。

アラン様は、王族であらせられますので、今からお話しすることは御参考程度にお聞き下さい。

一般的には二人きりで御出掛けになり、お話をしたり美しいものを見たり致します。

そうしてお互いを知り、気分を高め・・・・そして、口づけに至ったり出来るのです。

お分かりになりますか――――”

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