シャクジの森で〜番外編〜
「え・・・?」
驚いた丸い瞳が見上げている。
そうであろうな・・・。
「想いを抑えるということは大変なことだと、思い知らされた日だ―――あれ以来だ。私は何度も君をこの腕の中に入れ、この手で髪に触れ――――この指でこの唇を―――」
ふっくらとした唇の輪郭を、指でゆっくり辿った。
エミリーは瞳を潤ませ、何も言わずにただこちらを見上げている。
―――信じられぬか?
騎士の誓いを立てたあの日。
怪我をしていた君を見て、それまで漠然と感じていた気持ちがはっきりとした。
“私はこの異国の少女をこよなく大切に想い、愛している”と。
自らの気持ちに気付いたあの時、私は君を一生涯守ると決めテラスで誓った。
例え他の誰のモノになったとしても、それでもいいと。
考えてみれば、あの時は随分悲壮な決意をしておったな。
手放すことなど出来ぬのに。
“この唇は、まだ私のモノではない”
この唇に触れながら自分に言い聞かせ、幾度も暴走しそうになる気持ちを抑え込んだ。
“今宵伽を致せ”
一言、そう命じればその様に事が運ぶ身分。
我ながらによく抑えられたものだ。
君を心より大切にしておったゆえ。
「あの頃より、私は変わらずに君を大切にしておる。誰にも傷付けさせぬ。決して傍から離れてはならぬ。良いな?」
―――華奢な身体・・・
強く抱き締めると、壊れそうなほどに柔らかい。
こうして包み込むと抵抗なく身体を預け、先程申したことに答えコクリと頷いている。
堪らなく愛しい。
あの夜のように、髪にそっとキスを落とした。
「・・・で、先程君が言いかけておったことだが、お忍び、が何だ?」
抱き締める腕を少しだけ緩め、問いかける。
「ぁ、えっと・・・だから・・・。この姿ではとても目立つと思うの。きっとすぐに王子様だってばれてしまうわ」
「それはそうだな・・・では、どうしたものかな?」
このあと出されたエミリーの提案に、アランは 戸惑いつつも静かに頷き、準備を整えるべく、一緒に自室に入っていった。