シャクジの森で〜番外編〜
「エミリー、ここはっ―――・・・・」


人が溢れる噴水広場から視線を戻すと、さっきまで後ろにいたはずの身体が進路を塞ぐように正面にまわっていた。


おまけにか細い指がしっかりと上着の端を掴んでいる。



瞳をキラキラと輝かせ、首を傾げて上目遣いに此方を見上げている。

懇願するようなアメジストの瞳。

目があった瞬間に、ふわりと微笑まれ、私から難しい思考を奪い取ってしまった。



心臓がちくんと痛み、握る手に自然と力がこもる。


もう一方の手も腰にまわり、いつの間にか身体を引き寄せていた。




「ね?いいでしょう?少し見るだけですから」



おねだりをする甘い声。

滅多に聞くことがない声。

聞いた瞬間に心の中の角張っている部分がポロポロと崩れ落ちた。


あまりの可愛らしさに言葉を失っていると、語りかけてくる瞳が“やっぱりダメなの?”と、哀しげなものに変化していく。



――そんなにあちらが見たいのか・・・・。

君に、そんな表情をされると負けてしまうな。


ここでは、予想される危険が多くあることは確かだ。

だが、エミリーの笑顔を消すことは不本意なこと。


私が気を配れば良いか。


約束したゆえ、今日は夫らしく我が儘を聞くと―――





「・・・分かった。ただし、あの屋台だけだ。他は、ならぬ。良いな?」



噴水広場には、他にも興味を惹きそうな店がちらほら見える。


出来うる限りの厳しい顔を作るが、エミリー、君にはあまり効力は発揮せぬな・・・。




「分かったわ。ありがとう、アラン様」


嬉しそうに頬を胸に埋めるエミリー。


愛しさに腰にまわした手にますます力が入る。


―――何があろうと、君は必ず守るゆえ、自由にするが良い・・・。






エミリーを屋台の脇まで連れて行き、少し離れたところの木の陰で見守ることにした。

傍を離れるのは不安だが、仕方あるまい。

彼女は両手に髪飾りを持ち、じっくりと見比べている。

あれこれと手に取り、店の者に話しかける。


――やはり買うつもりか。

少々、長くなりそうだな・・・。



楽しげに髪飾りを選ぶエミリー。

それを見つめるアランの柔らかな表情が、にわかに硬くなり瞳に冷たい影が差し始めた。

帽子の下で、ブルーの瞳が鋭く光る。




―――・・・・。

どこからであろう・・・複数の視線を感じる。


それに・・・あの者達。


何故、ここに戻ってきた―――?

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