シャクジの森で〜番外編〜
弱々しくそう呟き、小さく手を振ったあと再び溜息を吐いた。



―――冗談だろう・・。

あんな凄まじい眼光を放つ者など、私の知る限り一人しか思い浮かばない。

帽子をかぶっていて銀の髪は見えないが、あの瞳の色。

ご婚姻の後ご挨拶に伺った時に拝見したのと同じだ。


よく見れば、あの屋台で買い物をしておられるのは王子妃様じゃないか。

あの美しい金髪に優しげな雰囲気、間違いない。


しかし、あの氷の王子様が、あんな姿で、しかも供をつけずにこんなところにいるなど、私にはとても信じられない。


まさか、お忍びで来られたのか。


番所に伝えるべきなんだろうか。

だが、何も言わない方がいいような気がする。


いや、しかし―――




紳士は老夫婦にかいがいしく話しかけられ、苦笑しながらも適度に相槌を打った。


もう一度青年をそっと見やれば、漂う気品と恐ろしい威厳にごくりと息を飲みこむ。



そうだ、これはあれだ・・・障らぬ神に祟りなし・・・だ。



紳士は無言を決め込んだ。


お忍びは、まだまだ続く――――









―――時は少し遡り、エミリーが花飾りの屋台を見つけた頃のこと。

そのとき、ウォルターは市場通りの馬車止まりにいた。



「・・・やはり、ここに居られますか」



急ぎ馬を駆り、勘を頼りに来てみた市場通り。

ウォルターは馬車止まりにあった薔薇の絵の馬車を見て、安堵の息を吐いた。

とりあえず、ここを探せばいい。

馬車がある限り、お二人はここに居られる。

馬を繋ぎ、大通りに出てみると、たくさんの人のにぎわいが目に入る。



―――平日であるのに、こんなに人が多いとは、さすが国一番の繁華街。

こんな場所にお忍びとは―――


安堵の後に、焦燥感が心を支配する。


ウォルターの中で、あの日目の前で、なすすべもなく賊に攫われていったエミリーの姿がよみがえる。



――このように出掛けられて、何事も起きなければいいが。


アラン様がついておられても、万が一ということがある。

焦りつつも、四方に視線を配りながら噴水広場へ向かうウォルター。

途中で警備番所が目にとまり、一思案の後、立ち寄った。
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