シャクジの森で〜番外編〜
「ウォルター殿、あなた様らしくもないっ。このような事態に、何故、お一人で来られたのですか!?少なくとも小隊で来られるべきでしょう!」


事情を説明すると、年配の警備長は見る間に顔色を変えていった。

握りしめられた拳は、今にも机を叩きそうだ。


――確かにその通り。

一人ではなく、小隊までとは言わないが、部下数名は連れてくるべきだった。


返す言葉もなく、口を引き結ぶウォルター。

自分がどんなに急ぎ焦っていたか、改めて思い知らされる。



あの時もそうだった。

エミリー様が攫われた時も。

あの時一人でなければ、賊の手からすぐに奪い返すことが出来たはず。

ギリと歯噛みする。


全く成長できていない自分に腹が立つ―――



「警備長殿、申し訳ありません。ですが、この件は大事になど出来ません。目立たぬよう、最少人数で動きたいと思います。お二人で結構です。お借し願います」



“では、私も行きます”

というのを抑えられ、納得のいかない風の警備長の歪んだ顔に一礼をし、ウォルターは二人を引き連れて市場通りの中心、噴水広場へと向かった。








「あれは、何だ?どうしたんだ?」



思わず呟くウォルター。

目にしたのは、屋台が並ぶ一角で、貴族風の若い紳士の脇で脚をバシバシ叩く紳士の姿。


その向こうにも、座り込む者が何名か見える。

その近くの屋台で買い物を楽しむ金髪のご令嬢が見えた。



あれは―――・・・


――ということは、あの者たちは、アラン様の威厳にあてられたのだな・・・気の毒に。




嬉しそうに花飾りを選ぶエミリーとそれを見つめるアラン。

ブラウンの瞳に、二人の姿が微笑ましく映る。

ウォルターの表情から焦りの色が消え、穏やかなものに変わる。


だがそれも一瞬のこと。

すぐにいつものピシッとした厳しい顔に戻り、ブルーの瞳に留まる範囲を避け、物陰からのこっそり警備を命じた。



これは、アラン様に見つかってはいけない。





「ウォルター殿、お声を掛けないのですか?」


あれほど探していたのにと、訝しげな表情の二人。

当然の反応に、ウォルターはきっぱりと言い放った。



「何を言うのです。当然です。邪魔は不粋です」



臣下なら、主君の意を汲み取り、このお忍びデートを成功させるべきです!
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