シャクジの森で〜番外編〜
エミリーはテラスの柵に捕まり、景色を楽しんでいる。

風にふわりとなびく前髪、瞳がキラキラと輝き、時々唇が僅かに緩む。

誰もが見惚れる美しい横顔。

今、何を思っておるのであろうな。



「アラン様、池の周りを人が歩いているわ」


「・・・ここは、アルスターパークという名の、民の憩いの場だ。
ここの開発が進んだ時、リンク王の時代から続くこの美しい自然を守ろうという市民の声が高まったことがある。反対派と推進派が別れて争いになった。時の王がさじを投げたその争いを、今の御三家のひとつであるアルスター家が仲裁に入り、根強い説得の末両者を和解させたんだ。
その後当主が中心となり公園の整備をすすめて・・・いや、こんな話はつまらんな・・・?」


「いいえ、アラン様。いいお話だわ。もっといろいろ聞かせてください」


「・・・私が誕生する以前の話だ。今では季節によりさまざまな表情を見せる、王国随一の公園となっている・・・・後程中を散策するか?」


「ここからで十分、です・・・」


肩口に、コテン・・・と頭が預けられた。


「・・・エミリー、疲れたのか?」


華奢な肩を包み込むと、頭がふるふると横に振れ「違うの・・・」と甘えるような小さな呟きが耳に届いた。



顎に指をかけ上を向かせる。

綺麗なアメジストの瞳に顔が映り込む。

それが瞳の中でどんどん大きくなっていく。

宝石のような瞳を瞼が隠し、涙袋を長い睫毛が覆い隠す。

ふっくらとした唇をそっと塞いだ。





背後で、コツン・・・と、靴の音がした。

息を飲む様子が微かに感じられる。

まるで忍び足のような足遣い。

気配は徐々に遠のいて行く。

スミフか?




ゆっくり唇を離すと、瞳に顔が映る。

顎から指を離すとそれが移動し、再び紅葉の景色を映した。

二人だけの静寂な時が流れる。



「―――エミリー、良いか。そろそろテーブルにつかねば。コーヒーが冷めるゆえ・・・」


柵に乗せられたままの手を取り、テーブルに誘導する。



「ごめんなさい、あんまり綺麗な景色なんですもの。うっとりしてしまって、時間を忘れてしまうわ。アラン様、とてもステキなところですね」


「気に入ったか?」


「はい、とても。このケーキも、とても美味そう。それに、この木のフォークも素朴でかわいいわ。これはきっと、スミフさんの手作りね?」
< 59 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop