シャクジの森で〜番外編〜
「王子妃様・・・そんなに、感動してくれたの?・・・なんだい・・・嬉しくて、こっちまで泣けてくるじゃないか」


サリーの顔がくしゃりと歪む。

釣られたのか、エミリーと一緒に涙を零し指先で何度も目を拭っている。

そして、急に此方を見たかと思えば、ギロリと睨んだ。

涙に濡れ少し赤くなった瞳が、物言いたげにじっと見つめる。



「なんだい、アンタ。そこに座ったままかい。女が泣いてんだ。こういうとき男は、優しく慰めるもんだろ?」


「・・・サリーを、慰めるのか・・・?」


「・・・っ、アンタ、それ冗談だろ?」


心底がっかりだよ、と呟き、カクンと項垂れたあと再びギロと睨んできた。



「ったく、アンタの愛しい王子妃様に決まってんじゃないか。ほら、早く」



すすっと、エミリーの身体が胸の前に押し出されてきた。

アメジストの瞳を潤ませて見上げるエミリー。




―――いつも、しておることなのだがな・・・。

これで、慰めになるのか分からぬが―――



濡れる頬を掌で拭い、革細工の髪留めを外した。

せっけんの香りを振りまきながらふわりと解けた柔らかな髪を、指先で丁寧に梳く。



「・・・感動したな・・・」


「・・・はい、とても素敵でした・・・。この景色も、この場所も、スミフさんとサリーさんも。なにもかも・・・」



なんだい、やればできるじゃないか、と呟いた腕がグイッと引っ張られる。

スミフに引かれたサリーの姿が、よろけながらもテラスから消えていくのを目の端に捕える。



エミリーがふわ・・と身体を預けてきた。

力を入れず、包み込むようにそっと抱き締める。



「エミリー、良かったな。・・・良い友人が、増えたな?」

「はい・・・アラン様、ここに連れてきてくれて、ありがとうございます」



服の端をキュッと掴み、頬を埋めてくる。


余程嬉しいのであろうな。

エミリーには友人が少ない。

人と会うことが少ないゆえ、仕方のないことではあるが。


このことについては、以前より気にかけておった。

君をここに連れてきたのは正解だった。


サリーはぞんざいではあるが、心根は優しい。

君の良き友となろう・・・。



「・・・エミリー、大変名残惜しいであろうが、もう、いとまをせねばならぬ」


そう申すと、ぱっと此方を見上げた。

寂しげな色を宿した瞳が、もう行くの?と語りかけてくる。


その表情に負けてしまいそうになるが、ぐっと堪える。

時と帰城を忘れる魅力が、ここにはある。



「・・・君の当初の目的を、まだ果たしておらぬぞ」
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