オトナの秘密基地
お人よし、なんて言われても、私にはその人達がどんなことを和子さんにしたのかさえもわからない。


「でも、私には財産の事なんてほとんどわかりません。

それにいざという時、旦那様の全財産を持って逃げられるかどうか……」


終戦記念日に生まれる予定の新矢は、お腹の中。

まだ小さい勝矢をおんぶして逃げる訳でしょう?

7月の空襲の時、ちょうど臨月じゃないの!

さらに平成の世の預貯金や有価証券ならわかるけれど、この時代の財産なんて、どうなってんの?

中田家は多分、土地や財産をいっぱい持っているんだろうけれど……?

私の頭の中は、わからないことだらけでぐるぐるしていた。

そのため、旦那様の様子が変わったことに気づくのが、少し遅れてしまった。


「……和子?」


「……は、はい!」


さっきまでと、旦那様の声音が違う?

厳しい、硬い声。


「お前、誰だ?

和子の姿形をしているが、和子ではないな」
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