シュガーレス
1人でうろたえる私を、呆れたように眺める透。
「お前、そのカッコで帰るつもりなんか?」
確かに…
このずぶ濡れの姿で、1人で電車に乗る勇気は無い。
「タオルくらい貸したるから、乾かしてけや。」
あぁ…そうゆう事!
「…はい」
私ってば何を考えてたんだろ…恥ずかし。
すると、そんな私の心中を見透かしたかのように、透がニヤリと笑う。
「えーろ」
「う、うっさい!」
びっくりしたけど…
何か今ので、気まずさがほぐれた気がする。
「どーぞ」
「…おじゃましまーす。」
私が透の家を訪れるのが、
これで
最初で、最後となるなんて
この時の私は、知らなかった。
そう、
何も知らなかったんだ。
この大きな家で育った
あなたの孤独を、
その悲しみを、
何も、わかっていなかった。