プレシャス
坂井君だって、忙しいのに。
でも
「いや、引き止めたのは俺も同じだし。てか、時間ヤバい」
「え…」
「ちょっと走るよ?」
そう口にすると
あたしの手荷物を肩に掛けて、あたしの手を掴んで走り出した。
「きゃっ…」
「ごめん、ちょっと頑張って」
間に合わせるから
そう呟いて強く握る大きな手と。
バタバタと響く二人分の足音。
胸に感じるのは
あがる息とは違う別の鼓動。
どんどん響いてくるこの音に
手を離したくて
でも
…まだ離したくなくて…
地下街を駆け抜けてる間ずっと
うまく言葉に出来ない気持ちが胸に広がっていくみたいで。
あたし…
どうしたんだろ…
なに…?
この気持ち…
斜め上の坂井君の横顔が
胸を締め付けていた。