君がいたから。



「黙れ、黙れ、黙れぇぇ!!!!」

狂った父の言葉が聞こえた瞬間
人間とは思えない形相で
台所から持って来たであろう、
包丁を振りかざしていた。

咄嗟に体が動いた。
テーブルの上に置いてあった
空のビール瓶を握って
妹から離れ、
私達に背を向けて包丁を振りかざしている
父の元へ駆け寄った。

「千絵っ、危ないーっ!!!!」

母の声が聞こえた。
でも、動きが止まることなく
私は目の前の大きな背中に向かって
ビール瓶を振りかざし、殴った。

パリィーンという音と共に
父が倒れた。
その瞬間、手から包丁が離れた。


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