君がいたから。



私は、その瞬間を見逃さなかった。
すかさず包丁を取り
母の元へ駆け寄って抱き締めた。


「ママ、ママ...、大丈夫?」


「千絵...、良かった!
怪我してないわね?」

母のアザだらけの手が
私の頭を撫でようとした瞬間、
「うう、...」とうめき声と共に
倒れていた父が這って近付いてきた。


「ふざけんなよっ?!?!!
こんの、糞餓鬼ーっ!!!!!!!」


ヨロヨロと立ち上がった父が
再び襲い掛かってきた。

右手に握っていた包丁を
力強く握り締めた。
意を決した私は、
包丁を父の左胸に向かって突き刺した。


「うっ、あぁぁぁあぁぁあああぁっ!!!!」


叫び声と共に返り血が私の顔に飛び散った。
バタンと倒れても尚、
胸から流れる血は止まる事は無かった。

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