愛のかたまり
 本当に、あたしは声を失ってしまったのかもしれない。

 それならそれでかまわない、もうどうなってもいい。投げやりな気分で海さんを見上げると、彼女はなんでもないことのようにあたしを見つめて、

「おみやげー。ちゃんとソフトも買ってきたわよ。これがいちばん人気あるんだってお店のおにいさん言ってたんだから」と、手柄を自慢する子どものように得意げだ。

 そして切れ長の目をなくならせて笑いながら言った。「だって、私がお仕事行ってる間、あなた退屈するでしょう?」

 この人は、あたしがすでに部屋を出て行ってる可能性ってものを、いっさい考えなかったんでしょうか。

「おもちゃ売り場っていいわよねえ。すごく、いい。子どもがたくさんいて、騒々しくて、空気が楽しさを含んで上昇する感じ。もう一生行くことなんてないと思ってたけれど、いちばん遠い場所のような気がしていたけれど、存外近いものね。それに一度こういうゲーム、やってみたかったし。だから本当のところ、あなたは口実」

 海さんはいたずらっぽく笑った。




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