愛のかたまり
「・・・・・・優香子?」

 海さんはそろそろと近づき、ひざまづいて優香子さんのちいさな頭を抱えた。

 震える手が頬に触れ、目蓋に触れ、くちびるに触れた。

 きりきりと空気が引き絞られるような時の経過。

「冗談だろ? 嘘だよな? ・・・・・・おいてくなよ、優香子。ひとりにしないでくれ」

 囁くほどのかすかな声で呪文のように繰り返す。

 ふたりを透明なシェルターが包んだ。

 あたしがどんなに叫んでも壁を叩いても、その中に入ることは許されない。

 身体の中全部泣いてるみたいに海さんは全身から悲しみを溢れさせて部屋を満たし、あたしはその想いの波に溺れてしまいそうだった。

 
 
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