平穏な愛の落ち着く場所


『遅れてごめんなさい!』

五年振りに見る彼女は、崇の記憶と
何ら変わらなかった。
いや、歳を重ねて更に美しくなっている。

澄んだ彼女のソプラノが
自分の名を呼ぶ時の心地好さが
一気によみがえった。

『千紗!!』

冴子は駆け寄って彼女を抱き締めた。

『心配してたのよ?!』

『本当にごめんね、
 家を出るのに手間取ってしまって』

『紗綾ちゃんに何かあったの?』

『ううん、大丈夫よ』

『冴子、彼女来たの?』

新郎の二階堂浩輔《にかいどうこうすけ》
も、会場から出てきた。

『ええ、ほら』

『ああ、よかった!
 迎えの車を押し付けなかった事を
 後悔してたんだ』

『二人とも、心配かけてごめんなさい』

『いいのよ、どうしてもとお願いしたのは
 私なんだから』

『何言ってるのよ!
 親友の結婚式はお願いされなくても
 必ず行くわよ!
 それよりも……あーもう!
 冴子ったら、なんて綺麗なの……』

涙ぐむ千紗を見て、冴子もまた同じように
涙する。

『浩輔さんと幸せにね』

『千紗だって、まだこれからよ』

冴子の言葉に彼女は曖昧な笑みを見せた。
これから?何のことだ?
崇には話が見えない。

『そろそろ戻らないと、
 主役の二人が居なくて、
 中が慌ててるんじゃないのか?』

崇は担当者らしき黒服が、
扉から出てくるのを見て言った。

『そうだな、ではこっちの美しい女性の
 涙は僕が引き受けるよ』

浩輔はそう言って冴子の肩を抱くと、
千紗を俺の方に押した。

『そっちは頼んだよ』

『千紗、また後で』

二人は会場に戻って行った。


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