ベイビー&ベイビー




「なに見ているの?」

「あ、拓海先輩。先輩も流し目王子の結婚、気になるんですか? かっこいいし、素敵ですものね~」

「流し目王子?」

「あれ? 先輩知らないんですか?」


 信じられないとばかりの後輩たちの顔に、俺は苦笑した。
 どうやら、ものすごく有名な男らしい。
 とんと芸能関係には疎い俺は、彼女たちから非難の視線が刺さった。


「先輩、ほかの芸能人を知らなくても、この人は知っていなくちゃ駄目ですよ」

「そうそう、木ノ下涼太郎。今をときめく歌舞伎役者ですよ」

「ドラマやCMにも引っ張りだこだし。ほら、ビールのCMとか見たことないですか?」

 そういって俺の目の前にその週刊誌を突き出してきた。

 確かに。
 見覚えのある顔だった。
 あんまりTVを見ない俺でも認識があるということは、そうとうメディアの露出が多いということだろう。


「その流し目王子がどうしたの?」


 はやる気持ちを抑えながら、俺はわざと今までの話は聞いていないそぶりをする。
 すると、3人の後輩女子は口を揃えて言った。


「「「結婚するかもしれないんです!」」」

「ふーん」


 俺が相槌を打つと、週刊誌にデカデカと映し出された写真を後輩が指差した。


「それがこの女の人。顔は全然映っていないから、どんな人かわからないんですけどね」

「やっぱり家柄がいいお嬢様とまとまるように出来ているんですねぇ。梨園ってなんか格式高いイメージあるし」

「あ、わかる、わかる。なんだか別世界な雰囲気あるよねー。歌舞伎って行った事ないけど、涼さまの艶姿は見てみたいかも!」

「うんうん。素はすごくカッコいいし、歌舞伎では女形なんでしょ? 見たいー!」


 後輩たちの話題は、流し目王子の結婚から遠ざかり、いかにどれだけその王子がカッコいいかを言い合い、花を咲かしている。

 俺はその会話に適当に返事をしながら、その週刊誌にスクープされた記事を見た。

「…え?」



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