ベイビー&ベイビー



「明日香ちゃん、遅くなってごめん。……結婚して?」

「た、拓海くん」

「二人で……いや、3人で幸せになろう?」


 俺がそういって明日香ちゃんの頬に口づけを落とした。
 一瞬吃驚したように目を大きく見開いた明日香ちゃんだったが、幸せそうにゆっくりと微笑んだ。


「はい!」


 そういって微笑んだ明日香ちゃんを再び抱きしめようとした、その時だった。
 バタンという音と、衝撃に目を大きく見開いた。





「……あれ?」



 気が付けば俺は枕を抱きしめたまま、ベッドからずり落ちていた。
 サイドテーブルでは、けたたましく目覚まし時計がジリリと鳴り響いている。

 起き上がってあたりを見渡せば、いつもの俺の部屋。
 しかし、そこには明日香ちゃんはいない上に、パジャマ姿の俺。

 俺は、放心状態で枕をポトンと床に落とした。


「……まさかとは思うけど…これって夢……?」



 間違いなく夢らしい。
 愛しい明日香ちゃんは、ここにはいないし、俺はパジャマ姿。
 それに目覚まし時計は7時を差して、鳴り響いたまま。

 今日は月曜日。
 俺はこの後、会社に出勤だ。

 また金曜日まで、明日香ちゃんに会えない日々が続く。

 俺は大きくため息をついて、その場に頭を抱えて座り込んだ。


「勘弁してくれよ……」


 俺は、あんまりの落胆に力が抜けた。

 ほんの少し前まで、夢とはいえ、かなり幸せな気持ちでいたのだ。
 それなのに、夢オチだなんて…。


 ガシガシと頭を掻いて、バスルームへと重い足取りで歩いていく。
 パジャマを乱暴に脱ぎ捨てて、バスルームに入り、冷水のまま頭から水を被った。

 シャキッとする体と頭。
 その瞬間、俺はいいことを思いついて口角を上げた。


「現実にすればいいんだ……」


 そう、あの幸せな気持ちになるべく現実にすればいいだけのこと。
 それには、タイミングがなんだとか、きっかけがなんていっている暇はない。

 一秒でも早く、明日香ちゃんにプロポーズして、あの幸せな夢の続きをみればいいじゃないか。
 そう考えたら、いてもたってもいられなくなった。

 知り合いのジュエリーショップの店長に無理いって開店前におしかけ、デザインをああでもない、こうでもないと注文をつけ、一週間以内に作ってくれと無理難題を突きつけた。
 店長は苦笑してはいたが、快く引き受けてくれた。

 そして出来上がったのが、このリング。
 俺は今日。このリングを持って明日香ちゃんに会いに行く。

 幸せな夢の続きを見るために。



 しかし俺はその後、気づくことになる。
 夢の続きを見る、と宣言したのはいいのだが、果たして明日香ちゃんがプロポーズをOKしてくれるかどうか……。
 すっかり、そんな大事なことが抜け落ちていた、俺のせっかちな頭。

 緊張で震える手で、明日香ちゃんのマンションのベルを押した……。




 FIN





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