君にすべてを捧げよう
「あー、いや違う。職場の……人」

「え!? ちょっと待って!」


バッグからペーパーを取り出して、ページを捲る。
美容師特集は、お店にもスポットが当てられていたのだ。

じ、と写真を見つめていたつぐみは、「これ!?」と指差して突き付けてきた。
そこには、にっこり笑っている鏑木さんが映っていた。


「あ……ハイ……」

「えー! かっこいいじゃない! すっごく優しそう!!」


きゃー、とつぐみが叫ぶと、玉砂利を勢いよく蹴散らしていたけんちゃんがびくりとした。
興奮したママをこわごわと見ている。


「やったじゃないの、めぐる! これはいいわ。うん」

「あ、ありがと……」


そういえば、つぐみは昔から他人の恋愛ごとが好物だった。
世話焼きな性格もあってか、随分と相談を持ちかけられていたものだ。


「で? どっちから? もしかしてめぐる?」

「い、いや向こうから、かな」

「お! いい審美眼してるねー。いつからなの?」

「え、えーと、一ヶ月前から、かな?」


俄然盛り上がってきたつぐみに圧倒される。
高校時代から、色めいた話とは無縁だったあたしは、つぐみに問い詰められることなどついぞなかったのだ。


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