君にすべてを捧げよう
あたしの男性経験は、五年前の蓮との一夜、あれ一度限りである。
他には一切なく、云わば処女と大差ない。


「二十七も目前で、どうなんだろ、これって……」


鏑木さんはKBR48が作れそうなくらい、経験豊富な人だ。
その道の強者だということは、経験のないあたしでも分かる。
何しろ、唇を重ねるだけでぼーっとなってしまうのだ。


「ドン引き、されるかな……」


引かれてしまう、ような気がする。
処女って重たいとかって話も聞くし。いや、処女というわけではないけど、限りなくそれに近いし。
とは言っても、手練手管に長けたフリなどできないわけで。


「あー……お腹痛くなってきた……」


ストレスがキリリと腹部を刺激し、ため息をついた時、自宅の電話が鳴った。


「誰だろ……」


立ち上がり、軽快なメロディの発生源を取った。
それは、ペナン島の空の下の、母からだった。


『やほー。元気してる? 様子伺いに電話しましたー』

「はいはい、元気ですよー」

『おかーさんもおとーさんもとっても元気ですよー』


相変わらず、底抜けに明るい。
向こうの土地に馴染んだのも、驚くくらいに早かったっけ。
適応能力が驚くほど高いのだ、この母は。


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