君にすべてを捧げよう
母はまだしゃべり続ける。


『誰だと思う? あんたも知ってる人よ。なんと! 佐伯……あら? 佐伯何さんだっけ?』


胸が締め付けられる。
あの人、か……。


「佐伯、瑞穂(さえき みずほ)……」

『あ! そうそう、その佐伯さんよ。ほら、美恵ちゃんの友達の!
こういうのも御縁なのかしらねー』


母は、元から機関銃のように喋る。
キャッチボールではなく、一方的に言葉の弾丸を連射するのだ。

いつもはそれに腹ただしさを覚えるのに、今日に限っては、ありがたかった。
あたしの動揺も、声の震えも気が付かないことを、感謝した。

曖昧で虚ろな応答でも彼女は満足し、ひとしきり話し終えて、電話は切れた。


ツー、ツーと無機質な音を遠くに聞きながら、あたしは動けずにいた。


「蓮に、彼女……」


いつか来るのだろうと、分かっていた。
枯れてると本人は言うし、事実この5年間女の人の影は一切なかったけれど、蓮はまだ31歳。
まだいくらでも、他の女性と関係を構築できる。

見た目はいいし、仕事は順調で生活基盤もあるし、蓮がその気になれば、いくらでも彼女を作れるのだ。

その日が、とうとう、来た。


「でも、何で……何で瑞穂さんなの……」

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