君にすべてを捧げよう
「いやいや、すごいですって。ていうか、そういうこと聞くと嬉しいですね」

「嬉しいってなんで? ハイネってミーハーだっけ?」


鍋肌に鶏肉を滑り込ませる。小さな泡が幾つも生まれるのを見ながら言った。


「いや、流行には結構疎いです。じゃなくてですね、あたし、鏑木さんの仕事、尊敬してるんですよね」

「え?」

「理想の仕事ぶりっていうんですか? 接客も、技術も、あたしの目指してるもの、そのものなんです。こうなりたいっていうものが、鏑木さんなんですよね。
だから、そういう、認められてるっていう話を聞くとすごく嬉しい」


取材を受けたのは、本当はすごく嬉しかった。
特集の対象者は読者からのアンケートなどから選出されるらしくて、この世のどこかにあたしの仕事を認めて、それを発信してくれた人がいると思うと、それだけで泣きそうだった。
自分の仕事が、こんな形で幸せを与えてくれるなんて。

だから、鏑木さんのそんな話も、嬉しくなるのだ。


「自分の追ってる理想が間違いじゃなかったって……ひゃぁぁああぁぁっ!?」


背後から、鏑木さんに抱きしめられた。


「ちょ、あ、危ないですってば! 油! 高温!!」

「ハイネー……」

「は、はい!?」


腕に力を込めた鏑木さんは、あたしの首筋に顔を埋めたまま言った。


「やばいかも、俺」

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