君にすべてを捧げよう
バタン! と勢いよく閉められたドアを見ながらため息をつく。


馬渡くんの彼女の羽衣(うい)ちゃんは近くの和菓子屋に勤める、すごくかわいらしい容姿に、品行方正な性格の子なのだけれど、ちょっと短気で、嫉妬深いという難がある。
なので、わがままで遊び人の馬渡くんとはしょっちゅう喧嘩している。
とは言っても、もう7年も付き合っていて、仲はすごくいいのだけど。

理由は知らないけど、今回だってまた数日もすれば落ち着いていることだろう。


「もう、仕方ないなー。いいよ、千佳ちゃん。練習台になるよ」

「ありがとうございます!」


千佳ちゃんの顔がぱっと輝いた。


「あたし、ロングのお客様が苦手なんです。だから助かります!」


さっき逃げ出した坊主頭を思い出す。
そういうことならどちらにせよ、練習台には向いてないか。


「ちょっと待っててくれる? これ、すぐ終わらせるから」


広げたカルテを急いで片付けることにした。


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