君にすべてを捧げよう
洗濯物干し場は離れの裏だからどうしても行かなくてはならないし、
客間に行けば嫌でも建屋が目に入るし、
夜中でも人が出入りしているからサクサクと足音が聞こえたりするし、
郵便物は母屋のポストに入るから、離れの引き戸に差し込まなくてはならないし。


それらの全てが、蓮の存在を知らしめているし……。



「あーもう、ムカつく!」


だから、嫌なんだ、ここに戻ってくるのは。
妙に気にしてしまって、気にする自分に嫌気がさすから、嫌なんだ。


着替えがないからこっちに戻って来たけど、明日は智の部屋に帰ろう。
智が迷惑じゃないって言えば、二晩くらい泊まってもいいよね。


少し他人行儀になった自室で着替えを済ませ、何気なく本棚に目をやる。


「あ……」


どうしてだか、隅に置かれた数冊のノートが視界に入った。
一番ぼろぼろになった一冊を引き抜くと、蓮の妙に綺麗な字で『11才おめでとう。めぐる』と書かれている。
その下にはお話のタイトル、『身代わり姫  坂城蓮』。

ぱらぱらと捲れば、何度も没頭した世界が幕を開けた。
あたしだけの世界が、そこにある。


「久しぶりに、読むかな……」


ノートを持ったままリビングに移動し、ソファに身を預ける。
気付けば、読みふけっていた。


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