君にすべてを捧げよう
『絶対にレオノーラを連れて帰って来るからな!』


勇敢で愛しいカエルの精霊が、高らかに宣言する。
身代わりだとバレてしまい投獄された娘を救出に向かうシーンなのだが、子供の頃のあたしはここからの精霊の活躍が大好きで、わくわくして読んだ。

ページを捲っていると、玄関でチャイムが鳴った。
こんな時間に誰だろう。首を傾げながら、玄関に向かった。


「はい、誰ですか?」

「私よー、瑞穂!」

「え?」


瑞穂さんは、言葉通り母屋に来ることはなかった。
ここに来てから初めての訪問。
もしかして、蓮に何かあったのだろうか。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


あわてて鍵を開け、扉を開けてみれば、申し訳なさそうに頭を下げられた。


「ごめん! お風呂貸してくれない?」

「は?」

「向こうのお風呂、壊れちゃったのよー。修理を呼ぼうにも明日しか行けないって言われちゃってさ。今日はここに泊まる予定だから、お風呂だけに家に帰るもの面倒だしー」

「は、あ。いいです、けど」

「サンキュー! じゃ、失礼しまーす」


ずかずかと入り込んだ瑞穂さんは、そのまま浴室の中の人となってしまった。

気持ちよさそうな鼻歌が聞こえだしたので、あたしはリビングに戻った。

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