君にすべてを捧げよう
「やだもう。それじゃあ私の印象が最悪なままなわけよね」


ふー、と瑞穂さんがため息をついた。
が、あたしを見ると、「いや、でもそれも仕方ないか」と納得したような呟きを漏らす。


「あの、何かあったんですか? 教えてください」

「そう、ね……。いいわ、話す」


瑞穂さんの話は、衝撃的だった。


「美恵さんのお腹の子が……、蓮の子じゃない?」

「ええ。あの時の蓮の担当編集、覚えてる? 黒田さん」


野苺社の蓮の担当だった人だ。中性的な人形のような顔立ちで、仕草の一つ一つが妙に洗練された、三十を越した男の人。
さすがあの当時の蓮の編集というべきか、彼もまた女遊びが激しく、しかし蓮とは違って幾度も修羅場を展開させていた。
彼女同士のキャットファイトはしょっちゅうで、刃傷沙汰になったこともあるという。

フェロモンを自在に操れるのではないかというほどで、蓮なんかは『妊娠するから近づくな』とあたしに注意したほどだ。

たしか黒田さんは、あの事故からしばらく経って退社して実家に戻ったと言う話を聞いた覚えがある。


「もしかして……黒田さんの子なんです、か?」


瑞穂さんはこくりと頷き、「タバコ吸っていい?」と訊いた。
頷いて、来客用の灰皿を差し出せば、彼女は慣れた手つきで火をつけた。
ふー、と紫煙を吐く。


「美恵、黒田さんに結婚を迫ってたんだって。子供が出来たから、責任とってって。そして黒田くんはそれを断った」

「け、っこん……?」

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