君にすべてを捧げよう
「着替えならあるよ」


赤川さんと長電話をしていた鏑木さんが、受話器を置いたかと思うとおもむろに言った。


「え?」

「俺のパーカーがあるよ。それに着替えなよ、ハイネ」

「あ、いやいいですよ、別に」

「風邪ひいたら困るよ?     
それに、心配しなくても一回も着てないし。貰いものを置きっぱなしにしてたんだ。ちょっと待っててね」


言うなり奥に消えた鏑木さんは、すぐにダークブラウンのパーカーを持って戻ってきた。


「俺サイズだから少しでかいけど、濡れた服着てるよりマシだよね? はい、どうぞ」

「あ、いやでも、いいんですか?」


タグがついたままの服を見て、申し訳なさを感じる。
プレゼントみたいだし、あたしが着てしまっていいのだろうか。


「いいよー。着て帰ってよ。千佳ちゃんだって、濡れたまま帰すの嫌だよね?」

「は、はいっ。あの、杯根さん、お願いなんでお借りしてください!」

「あー、はい。じゃあ、あの、どうも」


千佳ちゃんの子犬のような潤んだ瞳にじっと見つめられ、パーカーを受け取った。
罪悪感を感じていたらしい千佳ちゃんがよかった、とようやく笑った。


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