君にすべてを捧げよう
「じゃあ、着替えてくるね。千佳ちゃんはシャンプー台を片付けたらあがっていいよ」

「あ、はい! あの、ありがとうございました!」

「いえいえ。お疲れ様」


お疲れ様でした、という千佳ちゃんの言葉を背にロッカールームに向かい、着替えた。


うひゃ。パーカー、おっきすぎ。


袖からちょっぴり飛び出した自分の指先を見て、思わず笑った。
子どもの頃にお母さんの服を着てみたりしたけど、それとおんなじだ。
大人になってもこういう経験ってできるのかー。なんだか新鮮。

濡れたシャツを適当な袋に入れ、だぼだぼした袖を振りながら表に戻った。

千佳ちゃんは帰ったらしく、鏑木さんが一人でパソコンの前で作業をしていた。
咥えタバコで画面を見つめている。


「すみません、お借りしますね」

「ん? ああ、でかいね」


声をかけると、鏑木さんが視線を寄越した。わたしの姿を見て、ぷ、と噴き出す。


「でかいですよね、やっぱり。ほら、指先がこれだけしか出ないんですよ」

「あはは、ほんとだ。あれ? いつもちらちら見えてたネックレスってそれだよね。
ダイヤ……、じゃないか」

「え? ああ、クリスタルです」


プラチナの細い鎖の先に、澄んだクリスタルが一粒ついているシンプルなネックレスは、あたしのお気に入りで、よく身に着けている。
いつもはシャツの下にあるので目立たないのだが、首回りがぐんと開いたパーカーを着たため、露わになっていたのだ。


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