君にすべてを捧げよう
「私こう見えて蓮の作品、好きなの。書籍は全部持ってるし、当時のインタビューはスクラップもしてる。
男としては興味ないけど、作家としては大好きよ。
だから、絶対に筆を折って欲しくなかった。どんな形でも、辞めて欲しくなかった。
でも、蓮は以前のような作品はもう書けないっていうでしょう?」


頷いた。蓮は、パソコンを前にもう無理だと何度も言っていた。
あたしが差し出したノートを見ても、もうこんなのは書けないと小さく言葉を落とした。


「だからね、いっそ方向転換させちゃえと思って、知り合いの出版社の、週刊誌の官能小説枠を持って行ったの。あれって描写力が求められるからけっこう難しいのよ。蓮みたいな気難しい人ならむきになって書くと睨んだわけ。
それに、書き続けてればいつか以前のようなものを書きたいと思ったときにきっとその経験が役に立つわ」


そしたら思いの外成功しちゃった、と瑞穂さんはけらけらと笑った。


「女遊びばっかしてたから、ネタには事欠かなかったのかしらねー? とにかく大成功。どんな形であれ、作家は続けてくれてるわ」

「すごい……。瑞穂さんって優秀なんですね」


あの蓮を書かせる気にさせた人は、誰だか分からないけれどすごいと思っていた。
それがこの人だったとは。


「あれ? で、ここに瑞穂さんが来てるってことは、蓮の小説の掲載誌の編集さんなんですか?」

「まさかー。野苺社って言ったでしょ?」


蓮が今主に仕事をしている出版社は、確かに別の名前だ。
首を傾げると、瑞穂さんはうふふ、と嬉しそうに笑った。


「私がサポートしているのは『ひつまぶれんた先生』じゃなくて『坂城蓮先生』、よ」

「!! それって、もしかして」


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