君にすべてを捧げよう
「綺麗だねー、それ」

「ありがとうございます」

「で、ハイネはもう仕事は終わり?」

「はい。鏑木さんは終わりました?」

「うん。日報も今、本店に送信した」


一日のタイムテーブルや売上げなどは、本店に毎日メールで報告することになっているのだ。

ぷつんとパソコンの電源を落とした鏑木さんが、顔を再びわたしに向けた。

「じゃ、帰ろうか、ハイネ」

「あ、はい」


戸締りを確認して、裏口から店を出た。
店の近くには月極の駐車場があって、あたしと鏑木さんはそこを借りている。
すっかり日が落ちて、街頭がほんのり照らす薄暗い中を並んで歩き、じゃあ、と挨拶をして互いの車に乗り込んだ。


のだったが、まさかのアクシデント。


エンジンかかんない。

キーを回すも、エンジンが動く気配もない。

えー、故障? 困る。

わたわたとしていると、コンコン、と窓が鳴った。
「どうかしたの?」と窓越しに訊いてくる顔をみて、ドアを開けた。


「あ、鏑木さん。車、動かなくて……」


言うと、鏑木さんが車内に半身を入れた。
キーを何度か回してみて、次にボンネットを開けてエンジンルームを確認してくれる。


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