君にすべてを捧げよう
瑞穂さんは、あたしの顔をじっと見つめた。
その表情は、待ちわびた原稿をようやく手にしたと言うのに、晴れない。
どこか、思い悩んでいるように見えた。


「どうかしたんですか? 出来、よくない、とか……?」


坂城蓮として長く書いていなかったのだ、ブランクとかあるのかもしれない。
瑞穂さんは作家としての蓮に期待していたようだし、それで失望してしまったのだろうか。
おずおずと訊けば、瑞穂さんは首を横に振った。


「ううん、読んでて、泣けた。私は好きよ、あの話」

「そうなんですか? じゃあ、どうしたんですか?」


それなら、理由は何だと言うのだろう。
首を傾げていると、智が出てきた。


「こんばんは。お話なら、中でどうぞ? お邪魔なようなら、俺外に出てますけど」

「ああ、いえ。お構いなく。すぐ社に戻らなくてはいけませんので」


にこりと笑む瑞穂さんだったが、その笑顔は微妙に強張っている。


「鏑木さん、でしたよね。めぐるちゃんとは順調ですか?」

「うわ、み、瑞穂さん……っ」

「ええ。プロポーズも受けてもらえました」


狼狽えるあたしよりも早く、智が答えた。
それに、瑞穂さんが唖然としたように口を開ける。


「そ、そう……。やだ、びっくりしちゃった。ええと、おめでとう、めぐるちゃん」

「あ、ありがとうござい、ます……」

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