君にすべてを捧げよう
玉砂利を踏む音が聞こえた気がした、
その音はどうしてだか酷く耳に響いて、眠りの底にあった意識を表に引き上げた。


「ん……」


ぼんやりと目を開ける。
柔らかなランプの灯りに照らされた智の寝顔が目の前にあった。

外はまだ暗い。
満足に眠った感覚もないので、まだ夜中だと思う。


誰が、こんな時間に外を歩くというのだろう。
蓮の編集さんたちは、瑞穂さんを含めていないはずなのに。


「……!」


となれば、蓮しかいない。
外を歩いているのは、蓮だ。

しゃり、しゃり。
微かに、けれども確かに聞こえる足音。

蓮が、外を歩いている。


ゆっくりと布団を離れ、智が眠っているのを確認する。
転がっていたTシャツを着て、縁側に通じる障子をそっと引いた。
僅かな隙間から、外を窺う。


月明かりに照らされた蓮が、そこにいた。
櫛も満足に通していない髪、伸びきった髭。よれた作務衣。愛用の雪駄。
タバコを吸いながら、池の周りをのんびりと歩いている。


蓮……。


どうしてだか、瞳を奪われた。
幾度か見かけていたけれど、それでも、長く会っていない気がした。


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