君にすべてを捧げよう
原稿が上がったとなれば、蓮はもう離れを出て行ってしまうだろう。
追い込まれない限りは、やってこない。

次は、一ヶ月、いや二ヶ月先かもしれない。
その時には、もうあたしはここにいないだろう。


元は、ただのハトコ。
蓮をこうして見つめるのは、もう二度とないかもしれない。


あたしと蓮の道は、もう完全に別れているのだ。


どうしてだか、布団に戻ろうという気になれなくて、あたしは蓮を見つめ続けた。

一本吸い終えた蓮が、吸殻を携帯灰皿に押し込む。
すっかり長くなった前髪を掻き上げて、夜空を見上げる。
大好きだった横顔が露わになった。
そこに何を見出しているのだろう、真剣な顔。

しばらくして、ふるりと頭を振った。
離れに戻るのか、一歩踏み出す。
背中があたしに向けられた。


蓮。


名を呼びそうになった、その瞬間。
振り返った蓮が、こちらを見た。
あたしがそこにいるのを知っているかのように、真っ直ぐに。


まさか。
気付いているわけがない。
少ししか開けていない、この隙間にあたしがいるなんて、分かるはずがない。

でも、もしかしたら。


目を逸らせずに、束の間、蓮と向かい合った。


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