君にすべてを捧げよう
「店の前でやってたら嫌でも見えちゃうの! 言うよ?」


羽衣ちゃんの性格ならば、『貰ってた』という事実だけで一週間は怒る。


「羽衣ちゃんの機嫌取り、頑張ってもらおうか、馬渡くん」

「ほんっとーにすみませんでした!」


馬渡くんが土下座の真似をすれば、みんなが笑った。
と、服の裾を引かれて振り返れば、顔を真っ赤にした千佳ちゃんがいた。


「あ、あの。ハイネさん、おめでとうございますぅ」

「あ、ありがとう。どうかしたの?」

「いえ、なんかちょっと嬉しいのと寂しいのとで。あたし、ハイネさん大好き、なんで」


つけまつげの乗った、大きな瞳に涙が滲んだ。
それは見る間に膨れ上がり、ぽろぽろとこぼれだす。


「うあ、ちょっと、泣いちゃダメ、ね?」

「もっと色々教えてもらいたかったんですぅ。なのに、鏑木さんの馬鹿……!」


千佳ちゃんが叫ぶと、智が目を見開いた。


「ええー。まさか千佳ちゃんに責められるとは」


オーナーも、思い出したように言った。


「あ、鏑木くん。本店の子にも責められるかもねー。麻美ちゃんとか、舞さんとか、めぐるちゃんかわいがってるからなー」

「ええー?」


智と顔を見合わせて笑った。
この店を去る時、多分あたしは泣いてしまうだろう。


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