君にすべてを捧げよう
智のアパートには寄らずに、自宅に帰った。
あと一ヶ月しかないのだ、荷物の整理を少しずつでも始めなくてはいけない。
休日は新しい部屋を探したり、店のリフォームを業者さんと打ち合わせたりと無駄に使え
ないので、しばらくは店と自宅の往復になりそうだ。


「……あ」


駐車場に、まだ、蓮の車が停められていた。


「まだ、いるんだ……」


てっきり、今日の間にでも帰ってしまうものだと思っていたので驚く。
車から降りて離れを見やれば、在宅を証明するように窓が開け放たれていた。

その手前にある池をみて、ぼんやりと昨晩の蓮を思い出していた。
あたしがいるのを知って、見ているようだった。
もし知っていたとしたら、何か言いたかったのだろうか。


「……なんて、そんなわけないか」


気にしすぎ。
蓮があたしのことを気にかけてるだなんて、そんなことあるはずがない。

くすりと笑って、母屋に帰った。


「さて、どれを置いて行けばいいのやら……」


リビングの出入り口の前に立ち、思わず呟く。
お気に入りの家具ばかりで、どれも置いて行きたくない。
でも、最初は経費を最小限に抑えたいから狭い部屋にしよう、と言いだしたのは他でもないあたしだったりする。

智の荷物もあるし、持って行けるのは僅かだなあ。

このラブソファだけは絶対に持って行こう。
これだけは譲れないのだ。

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