君にすべてを捧げよう
訊けば、蓮はこくりと頷いた。


「いい、けど……」


どうしてという言葉は飲み込んだ。
蓮の髪を切ることなど、もうない。
最後であれば、やろうと思った。


「入って」

「ああ」


のそりと蓮が入ってくる。


「えーと、鋏は殆どを店に置きっぱなしにしてるの。早く言ってくれたら持って帰ったのに」


自宅には、使わなくなった鋏しか置いてないのだ。
それでも十分使えるので問題はないけれど。

カットクロスやコームを探しに行く間、ここで待っててと、客間の向こうの縁側に蓮を座らせた。
蓮は大人しくそこに座っていた。


「えーと、確かここの辺りに置いてたんだけど、な」


自宅で人の髪を切ることなどそうそうないので、納戸の奥にしまいこんでいた。
それを探しながらも、縁側にいるであろう蓮が気にかかる。

髪が伸びたから切って欲しい、それだけだよね?
面倒くさがりな蓮だから、帰る前にあたしに切らせようと思っただけだよね?

きっと、五年前のように、あの夜のことは蓮にとってはさらりと流せることで、あたしのことなんか何とも思ってない。


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