君にすべてを捧げよう
生まれてからずっと、この家で生活して来た。
その途中で祖父がいなくなり、次いで祖母もいなくなった。
次は父。そして母。
残されたあたしも、この家を去る。


古くて手入れの大変なこの家は、嫌いじゃなかった。
人が良く集まって、騒がしくて。
それはだんだん静かになっていったけど、あたしは、この家が、この場所が大好きだったと思う。
天井の木目の柄にも、今はただ愛おしさを感じてしまう。


「感傷、か……」


まさに、そういう感情なのだろう。
離れることに、寂しさを覚えている。


両親も帰って来ない、あたしもいない、離れの住人もいない。
この家はきっと、静かに残されて、ゆっくりと風化してゆくのだろう。


「やば。涙出てきた」


垂れた鼻水をず、と啜る。

と、玄関でチャイムが鳴った。


「はぁ? 誰よ、こんな時間に」


鼻を啜り、目元をごしごしと擦る。
その間に、チャイムはもう一回鳴った。


「もう、わかってるってば。はーい?」

「瑞穂です」

「へ? 瑞穂さん!?」


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