君にすべてを捧げよう
蓮の原稿を持って帰って以来、姿を見せなかった人だった。


「ど、どうしたんですか!?」


扉を開ければ、酷く思いつめた様子の瑞穂さんが立っていた。
あたしを見て、強張った笑みを浮かべ、頭を下げた。

「こんな時間に、ごめん。すぐ渡したかったの」

「い、いえ。どうしたんですか?」

「明日、向こうに行くって、あなたのご両親から聞いたから、間に合わせようと必死で」

「へ?」

「問い合わせさせてもらった。勝手に、ごめんね」

「いえそれはいいんですけど、ええと」

「これ、出来たばかりなの」


言いながら、瑞穂さんは、肩にかけていた大きなバッグから包みを取り出した。
大きな茶封筒を二つ折りにしたそれを、あたしに差し出す。


「なんですか? これ」

「坂城蓮の、新刊。十日後に、書店に並ぶわ」

「しん、かん……」

「誰よりも先に、あなたに読んでもらいたいの」


ずいと、瑞穂さんは差し出す。



「お願い、読んでちょうだい」

「な……、なんでですか……」

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