君にすべてを捧げよう
手にしてはいけない。
本能がそう叫んでいた。
これを読んでは、いけない。

けれど、瑞穂さんはあたしに封筒をつきつける。


「めぐるちゃんが読むべきなの。お願い」


瑞穂さんの目には、涙が滲んでいた。
この勝気な人が泣くのを見たのは、美恵さんの死に関わったときだけだった。


「受け取って、めぐるちゃん」

「……あたし、結婚、するんです」

「わかってる! だから、その前に、お願いしますっ」


瑞穂さんは、あたしに深々と頭を下げた。

この人に、そんなことをしてもらえない。
してもらう理由がない。


「やめて下さい! なんで瑞穂さんがそこまでするんですか!?」


縋って顔を上げてもらう。それでも瑞穂さんはあたしの体に本が入っているのであろう封筒を押し付けた。


「蓮を知ってるから。そして、これを読んだからよ。読んだからには、動かずにはいられない」

「なにを、言って……」

「最後の本かもしれない。だから、お願い」

「さいご……?」


それは、蓮がもう書かないと言うこと?
あんなにも必死に、命を削るように書いていたのに、それを最後にもう書かないってこと?

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