君にすべてを捧げよう
もしかしたら、この娘は気付いていないのだろうか。
必死に世話をしている男は何もない、薄っぺらな人間だと言うことが。
だとすれば、どれだけ愚かで、哀れなことだろう。
男は、少女に言う。
『私は何の力もない、ただの男だよ。楽師の才能があると夢見た愚かな男の成れの果てなのだから、もう離れるといい』
それを聞いた少女は初めて、泣いた。
綺麗な涙をほろほろ流し、しかし、朗々と歌い上げた。
それは、大昔、楽師が少女の為に戯れに作った、拙い童謡だった。
作ったことなど、とうの昔に忘れていた。
けれど。
楽しそうに、嬉しそうに。
溢れている涙もいつしか枯れ、幸福そうに歌う少女の姿に、楽師は記憶から葬り去っていた過去の自分を見つけ出した。
音符を必死に紡ぐ、自分の背中を。
ああ、そうだった。
自分は、生まれついての楽師などではなかった。
人々を感動させるような才能など、最初から持ち合わせていなかった。
自分が音楽に触れたのは、この少女の為に、この少女を笑わせようと、それだけのことからだったではないか。
音を奏でれば、この子が余りに喜ぶから。喜んで、笑って、身を捩って幸福だと言うから。
それが、とても嬉しくてたまらなかったから。
そうだ。それだけの為に、始めたことだったではないか。
自分は、楽師の道に生まれたのではない。
この娘が、楽師の道を自分に示してくれたのだ。
この娘が、楽師としての自分を作ってくれたのだ。
必死に世話をしている男は何もない、薄っぺらな人間だと言うことが。
だとすれば、どれだけ愚かで、哀れなことだろう。
男は、少女に言う。
『私は何の力もない、ただの男だよ。楽師の才能があると夢見た愚かな男の成れの果てなのだから、もう離れるといい』
それを聞いた少女は初めて、泣いた。
綺麗な涙をほろほろ流し、しかし、朗々と歌い上げた。
それは、大昔、楽師が少女の為に戯れに作った、拙い童謡だった。
作ったことなど、とうの昔に忘れていた。
けれど。
楽しそうに、嬉しそうに。
溢れている涙もいつしか枯れ、幸福そうに歌う少女の姿に、楽師は記憶から葬り去っていた過去の自分を見つけ出した。
音符を必死に紡ぐ、自分の背中を。
ああ、そうだった。
自分は、生まれついての楽師などではなかった。
人々を感動させるような才能など、最初から持ち合わせていなかった。
自分が音楽に触れたのは、この少女の為に、この少女を笑わせようと、それだけのことからだったではないか。
音を奏でれば、この子が余りに喜ぶから。喜んで、笑って、身を捩って幸福だと言うから。
それが、とても嬉しくてたまらなかったから。
そうだ。それだけの為に、始めたことだったではないか。
自分は、楽師の道に生まれたのではない。
この娘が、楽師の道を自分に示してくれたのだ。
この娘が、楽師としての自分を作ってくれたのだ。